「今日はキャンセルしましょう」
長野さんのこの一言で、私の初フライトはお預けとなった。時は8月4日夕刻のことである。その直後に雨が降りだした。 朝の立ち上げ練習が、あまりうまくいかなかったので、ちょっとほっとしたような、でもがっかりしたような複雑な気分だった。
そして、翌日。この日は朝練から参加しようと思ってたが、起きられずに断念。通常の時間にTAK事務所に到着した。 朝から軽くグリーンパークで立ち上げ練習。今日は昨日よりは、まあまあマシなんじゃないか、これなら いけるかも。気持ちの準備はOK。後は飛ぶだけである。
いよいよ昼過ぎから岩屋山頂へとむかう。なかなかいい風が吹いているらしく、多くのフライヤーが集まっていた。その風のなか、上級者の方が次々とTake Off。人数がどんどん減っていき、ついにお呼びがかかった。長野さんから説明をしていただき、後は、風待ち状態。緊張していたせいか、この時間がとても長く感じられた。
そして、待ちに待った長野さんの合図。グリーンパークでの練習のように、踏み込み、機体を 立ち上げていく。いつもと同じ感覚だ。いける。 「離して」の合図。ライザーを離して、谷底に飛びこんでいく。
その直後…、私は空を飛んでいた。空に生身の人間が浮かんでいる。
タンデムの時にも体験したが、相変わらず不思議な感覚だ。 ただ、あの時と違い、後ろに校長はいない。 時に入ってくる無線の声を頼りに、自分で操作していかねばならない。 そこが不安でもあり、うれしくもある。 周りに山々があり、眼下には小さな建物。時に車の走る姿が 目に入る。風切り音を体全体に感じながら、最高の気分を 味わっていた。
さあ、初フライトだし、後はランディング一直線と思っていたが、 心なしか、下の風景がどんどん小さくなっていくような…。 まさか、上昇してる?え、でも初フライトやでー。 そんな思いをよそに機体はぐんぐん上昇していた(らしい。必死だったので、本人はあまりわかっていない。周りのフライヤー の人達も、いきなりフィルがあがってきたので、びっくりしていたとか)
この辺りになると、正直少しこわかった。 時折、風のせいか、機体がぐらぐらしたりして、 必死にしがみついていたというのが、実際のところである。 ただ、こちらの気持ちを知ってか知らずか、 校長が、無線で落ち着くように、何度も呼びかけてくれたので、 なんとか平常心を保つことができた。
そうこうしているうちに、だんだん風景が近づいてきている感じ。 こうなると、怖がっていたくせに、もうちょっと飛んでいたいなという 気持ちも出てきたりする。現金なものだ。
初フライトの時はランディングは格好よくきめようと 思っていたので、しっかりと着地地点を見定める。 あとは、校長の誘導どおりにがんばれば大丈夫だ。 ところが…、風が強く、ちょっと離れたところに 流されてみたいだが、無線が入らない。 (他の人の無線がたまたま入ってたらしい。校長が他の機体に気を取られていたとの噂もあるが…)
ちょっとたってから、ようやっと無線が入り、 指示通り、あわてて旋回させるが、ポイントには間に合いそうもない。
「高木君、河原に降りよう」との声。 下をみると、右に田んぼ、左に河原がある。 一発目から、田んぼに突っ込んだりしたら、 校長に変てこなあだ名をつけられ、一生言われかねないな、 と思い、必死に河原に目標を定める。 ハーネスから立ち上がり、準備OK。 草の中に突っ込んでいき、格好悪かったが、 なんとか着地することができた。
こうして、一生に一度の初フライトは無事に終了した。ちなみに、この日はこの後も1本飛ばしてもらい、最高の1日となった。
誘導をしていただいた校長、Take Offを手伝っていただいた長野さん。ありがとうございました。今後ともまた、よろしくお願いします。
以上